感染性心内膜炎(疣贅性心内膜炎)
症例の概要
犬
ゴールデンレトリバー
10歳11ヶ月
雄
昨日の夜から突然立てなくなった。身体検査にて高体温、血液化学検査にてCRPの上昇を認め、心臓エコー検査にて大動脈弁に疣贅を疑う構造物、収縮率の低下(FS9%)を認めたため、疣贅性心内膜炎と仮診断。血液培養を検査外注。
感染性心内膜炎の病態/疫学/治療・予後について
病態
心内膜や弁膜に細菌や真菌などの感染を生じ、弁膜に疣贅が形成されることがある全身性の炎症性疾患です。
一過性あるいは持続性の菌血症が背景にあり、本疾患を発症しやすい素因がある犬に発生しやすいと言われています(例、大動脈弁狭窄症:狭窄部の血液の乱流によりその位置に微生物が留まりやすいこと、高速血流による心内膜の損傷など)→ Case.17 大動脈弁狭窄症。
診断された犬の多くは一般状態が悪く、敗血症やDICを伴っていることがあり、致死的であることが多い。
罹患部位として僧帽弁、大動脈弁が多く、そのため左心不全を生じやすい。他に、血栓塞栓、不整脈などもみられることがあります。
疫学
中型〜大型犬、中年齢以上のオスの発症が多いと言われ、小型犬での発生は稀。猫はさらに稀と言われています。
治療〜予後
抗生剤の使用、心不全に対しての必要な治療を行います。
予後は一般的には不良で致死的となることが多く、生存した症例はわずか20%との報告もあります。病変部の病原体を完全に除去できないこと、障害を受けた弁膜病変による弁逆流による心不全、血栓症の発生などが理由として挙げられます。
治療経過・考察
入院下にてピモベンダン、ドブタミン、エンロフロキサシン、アンピシリンなどの投薬を行うも、翌未明に死亡。
感染性心内膜炎は稀な疾患であるが、その診断要件や特徴的な心臓エコー所見を知っているかが診断のポイントとなる。(この症例では血液培養の結果を待てず、確定診断には至っていないことをご了承ください。)
本疾患が疑われる場合、直ちに抗生剤の投与を開始すべきであるが、予後が悪い疾患であり、オーナーさんには慎重に説明する必要がある。